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column KAIKE PRESS

2023.12.08

連載コラム
「孫さん、ウェルビーイングって何ですか?」#2
地域全体のウェルビーイングを考える

「孫さん、ウェルビーイングって何ですか?」

皆生温泉エリアで目指す「ウェルビーイング」。最近、いろんなところで耳にするこの言葉だけど、どんな意味なんだろう?「まち」「温泉」とどんな関係があるの?映画製作や即興劇、路上での健康相談など、様々な方法でウェルビーイングを高めるための活動を実践、研究する孫大輔さんに「ウェルビーイング」について連載していただいています。

地域全体のウェルビーイングを考える

前回のコラムでは、個人のウェルビーイングについて、心理学者セリグマンのPERMA理論やアリストテレスの幸福(エウダイモニア)概念から、その意味を解説しました。個人のウェルビーイングは「快楽」の状態だけではなく、「人生の意義・意味」を感じられる状態にあるかということも関係するという話でした。

それでは、地域全体のウェルビーイングのような集合的なウェルビーイングについて皆さんは考えたことがあるでしょうか。例えば、自分の故郷や住んでいる街のウェルビーイングはどうでしょうか。「住みやすい街ランキング」なるものがありますが、「住みやすい」地域というのは一体どういうことなのでしょうか。

地域住民のウェルビーイングを快楽的な要素と幸福(エウダイモニア)的な要素に分けて分析した論文があります。その結果、快楽的ウェルビーイングは、余暇があるか、人間関係・家族関係が良好かということと関連しており、エウダイモニア的なウェルビーイングは、仕事が充実しているか、就職できているかといったことと関連しているという結果でした。つまり、地域のウェルビーイングは地域住民同士のつながりや仕事の充実度などに左右されそうです。また、都道府県ごとにウェルビーイングを比べてみると、沖縄県と奈良県がとても高く、この2つの県の特徴として地域の「寛容性」が高いということが挙げられました。これは「他者の多様な生き方に対して地域がどのくらい寛容か」ということです。

「寛容性が高い地域」とは、そこに住まう人々がどんな生き方をしていても、それを適度に放置して見守ってくれる社会と言えそうです。これと関連する別の研究結果があります。日本で一番自殺率が低い町(徳島県旧海部町)を調査した研究では、「ゆるいつながり」という特徴が挙げられました。具体的には、隣近所の付き合いは「挨拶程度」で、必要以上に介入しない。他人の評価は「人物本位」で、家柄や地位・肩書で評価しない。しかし困った人がいるときはいつでも援助をさしのべる。この町には、他者に対する寛容性がありながらも、ほどよい「おせっかい」が存在する、そんな特徴があるようです。

「ウェルビーイングな地域」をいかにつくっていくかというのは、簡単なことではありませんが、こうした「寛容性」や「ゆるいつながり」、ほどよい「おせっかい」というキーワードを軸に考えていくと良いのかもしれません。

孫大輔 家庭医(総合診療医)/鳥取大学医学部地域医療学講座講師

参考文献:
1.有馬雄祐. 地方創生のための寛容性と幸福の分析.
(地方創生のファクターX:寛容と幸福の地方論).
LIFULL HOME’S 総研. p.96-115, 2021.
https://www.homes.co.jp/souken/report/202108/

2.岡檀. 生き心地の良い町:この自殺率の低さには理由(わけ)がある.
講談社, 2013.