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column KAIKE PRESS

2023.12.08

連載コラム
「孫さん、ウェルビーイングって何ですか?」#3
地域全体のウェルビーイングを考える

「孫さん、ウェルビーイングって何ですか?」

皆生温泉エリアで目指す「ウェルビーイング」。最近、いろんなところで耳にするこの言葉だけど、どんな意味なんだろう?「まち」「温泉」とどんな関係があるの?映画製作や即興劇、路上での健康相談など、様々な方法でウェルビーイングを高めるための活動を実践、研究する孫大輔さんに「ウェルビーイング」について連載していただいています。

「銭湯」が地域のウェルビーイングに果たす役割

前回のコラムで「地域のウェルビーイング」を高めるには「ゆるいつながり」や「寛容性」が大事だという話を紹介しました。私が東京の下町エリア「谷根千(やねせん)」(谷中・根津・千駄木)でフィールドワークをしたとき、まさに地域の「ゆるいつながり」を象徴するような話を聞きました。それは「銭湯」です。その地域に詳しい女性が「地域から銭湯が無くなると、人々の生活に大きな影響がある」というのです。今では谷根千地域には銭湯が数軒しか残っていませんが、最盛期の1960〜70年代には100軒近くの銭湯があったそうです。当時は自宅に風呂がない人も多く、たいての家から歩いて数分のところに銭湯があったようです。そこでは、さまざまな交流やコミュニケーションがおこっていました。

私たちの研究グループが、銭湯に長年通い続けているという地元の女性たちにインタビューした際、銭湯では「背中の流し合いコミュニケーション」があるという話を聞きました。銭湯の常連さんだと、新顔の人が入ってきたとき、その人の雰囲気をみて、「背中流しましょうか」と声をかける。そこからいろんな世間話をして人の輪ができるんだそうです。その方は「背中を見ると、声をかけてほしい人かどうか、だいたい分かる」とおっしゃっていました。まさに「裸の付き合い」と言えるでしょう。その他にも、銭湯では多世代交流や親子支援のようなことも起きていました。若いお母さんが赤ちゃんや子供と一緒に銭湯に来ると、常連の女性が子供の面倒を見て、その間にゆっくりお母さんにくつろいでもらったりしたそうです。また、そうした中で育児などの相談に乗ってもらうこともでき、子育てサポートの場としても銭湯が大きな役割を果たしていたようです。

銭湯のように地域の人々がゆるくつながれて、多様な形のつながりが生まれる場というのは地域においてとても重要です。「サードプレイス」という言葉もありますが、たまり場のように人々がゆるく集まって交流できる場が、地域のウェルビーイングを高めると考えられます。皆さんの住んでいる地域にはそのような場所があるでしょうか。私は、町のカフェでゆっくり珈琲を飲みながら過ごすのが好きなのですが、お店によっては店主や他のお客さんと話がはずむようなところがあります。そういうお店は地域の人の交流の場となっていることが多く、まさに「銭湯」のような場として機能しているのでしょう。

孫大輔 家庭医(総合診療医)/鳥取大学医学部地域医療学講座講師