「みんなの図書館 カイケノマド」とは
皆生温泉のまちにある「みんなの図書館 カイケノマド」は、多様な人が訪れ、それぞれの時間を過ごしながら、まちの誰かの想いが詰まった本に触れ、新たな興味や出会いが生まれていく――そんな“まちとひとの窓”のような場を目指しています。
木の香りが心地よい本棚や、皆生温泉の象徴であるテトラポッド型の机や椅子が並ぶ落ち着いた空間では、本を読んだり借りたり、雑談を楽しんだり、一箱本棚オーナーとして図書館の運営に関わったりと、思い思いの過ごし方ができます。
なかでも特徴的なのが、ひと箱ひと箱の本棚にオーナーがいること。本棚にはそれぞれの人の想いや個性が詰まっており、並んだ本からオーナーの人柄を想像したり、新しい興味が生まれたり、共通のテーマや文化をきっかけに交流が広がったりする、そんなゆるやかで豊かな場所です。
そんな「カイケノマド」で、自身の本棚を持ち、本を通じて来館者とつながるひとりのオーナーが冨山さんです。今回は、冨山さんの本との関わりや、おすすめの一冊など、お話を伺いました。
カイケノマドの本棚オーナー・冨山智美さんにインタビュー
冨山さんは大阪出身。1年半前、旦那さんの実家がある鳥取県日吉津へ引っ越してきました。
引っ越しの際には漫画を中心に大量の本を運ぶことになり、「引っ越し業者さんも大変だったと思う」と笑いながら話してくれました。
本棚オーナーになろうと思ったのは、「友だちづくり」がきっかけ。
たまたま見たニュースでカイケノマドのことを知り、調べていくうちに本棚オーナーを募集していることを知ったそうです。
「引っ越してきたばかりで、友だちも少なかったので、同じ趣味を持つ人と繋がれたらいいなと思って応募しました」と振り返ります。
今では、共通の話題で盛り上がれる、同じ本棚オーナーの友だちができたそうです!
本好きになった原点
冨山さんが本好きになったのは子ども時代。
「おもちゃは買ってもらえなかったけど、本ならいくらでも買ってもらえたんです」
そんな環境が読書を自然と身近なものにしました。大阪時代には知人の雑貨屋イベントで古本屋を開いた経験もあるそうです。ご本人は「読むのはあまり得意じゃない」と言いつつ、絵本や漫画を楽しむ時間が生活の一部になっているようです。
おすすめの本たち
お気に入りとして紹介してくれたのは、ほしよりこさんの『逢沢りく』と、自転車競技の魅力を旅の目線で描いた『旅するツール・ド・フランス』の2冊です。
『逢沢りく』は、映画のような空気感と繊細な人間描写が魅力の作品。読み進めるうちにタイトルの意味がじわじわと浮かび上がってくる奥深い一冊で、手塚治虫文化賞マンガ大賞も受賞しています。
また、下画像のようなラフスケッチのように描かれた漫画形式なので、とても読みやすく、手に取った人が気軽に物語の世界に入り込めるのも魅力のひとつです。冨山さんは「訪れた人にはぜひ読んでみてほしい」と語っていました。
もう一冊の『旅するツール・ド・フランス』は、世界最大の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」を“旅”の目線で楽しめる本。冨山さんは漫画『弱虫ペダル』をきっかけに自転車競技に興味を持ち、今では自身もロードバイクに乗っています。
「ツール・ド・フランスって、3週間にわたって毎日100km以上を走るんですよ!しかも個人戦じゃなくてチーム戦!見れば見るほど奥深くて面白いんです」
目を輝かせながら楽しそうに話す姿は、まるで一緒にレースを観戦しているようなワクワク感にあふれていました。
さらに今では、同じくロードバイク好きの本棚オーナーさんと話が盛り上がることも多いそうで、本をきっかけに趣味の輪が広がっている様子が印象的です。
カイケノマドで広がるつながり
カイケノマドでは、月に一度「本棚オーナーの会」が開かれており、オーナー同士で本の話をしたり、おすすめを紹介し合ったりと、本をきっかけに自然と会話が弾む時間があります。冨山さんもこの場を楽しみにしているひとりです。
また、店番としてカイケノマドに立つ時間も、日々の大切な交流のひとときになっています。小学生から同年代の方、さらには外国人観光客まで、さまざまな人と触れ合うことができるため、オーナーになる前と今とでは過ごし方や人とのつながり方が大きく変わったそうです。
「本棚を持つようになってから、日常がすごく充実しました」と笑顔で話してくれました。
冨山さんは、「皆生温泉は、新しいお店も増え、地元の人と観光客が入り混じるまちだなぁと感じています」と話します。
「本を通して、今よりもっと皆生温泉を好きになってもらえたり、ここに来るきっかけになったら嬉しい」とも語ってくれました。
カイケノマドの本棚には、オーナー一人ひとりの想いやストーリーが詰まっています。訪れる人にとっても、この場所が本をきっかけにまちとつながる“窓”になるために、自分にできることを続けていきたい。