ひとつの宿の決断が、まちの風景を変えていく。松涛園から広がる皆生温泉のいま
2023年9月のインタビューから約2年半。 あれからの「松濤園」について、支配人の福留さんを再び訪ね、その後の歩みを伺いました。
当時は「わんちゃんと泊まる温泉宿」としてフルリニューアルを決断し、まさに変革の真っ只中にあった松濤園。
観光の賑わいが以前のようには「戻り切れていない現状」。 そんな苦しい状況を打破するために踏み切った、「犬と一緒じゃなきゃ泊まれない」という大胆なスタイルへの変更は、コロナ禍で急変した温泉街に新しい風を吹き込もうとする、未来への挑戦でもありました。
「ずっと一緒にいたい」という想い
オープン当初は、決して順風満帆ではなかったそうです。
従来の一般的な宿から、“犬と泊まらなければ泊まれない宿”への転換。
客層は一変し、最初は集客にも苦労しました。
けれど少しずつ風向きは変わっていきます。
「昨年あたりから、本当にたくさんのお客様に来ていただけるようになりました」
福留支配人は、そう穏やかに語ります。
以前は関西圏が中心だった客層は、今や関東、北海道、沖縄からも訪れるお客さまが増え、
いまでは全国の愛犬家が「次はここへ行こう」と旅の候補に入れる宿へ。
車移動が基本になる、わんちゃん連れの旅。
それでも距離を越えて人が集まるのは、“食事も、寝る時も、片時も離れず一緒にいたい”。
そんな飼い主さんの深い愛情に、宿の在り方がまっすぐ応えてきたからです。

そして、もうひとつは、SNSと広告を「自分たちの手で」運用し始めたことでした。
福留支配人自身も、家では中型犬2頭と暮らす飼い主のひとりです。
「私も家で中型犬2頭と暮らしています。だからこそ、飼い主さまの気持ちがよく分かるんです。
わんちゃんと暮らす方に宿の想いを届けるには、SNS運用を他社に任せるのではなく、日々の犬との暮らしの実感や、現場で実際に聞こえてきた声を、SNSと広告を通して自分たちの言葉で伝えたい。そう考え、自社運用を始めました。」
デザイン経験を活かし、投稿の企画から画像制作、広告運用までを一貫して手がける。
ターゲットは明確に「35歳以上の夫婦層」に絞り込みました。
訴求の軸は、愛犬家が旅先で感じやすい“壁”となる、次の2つ。
- 一緒に食事ができない
- 添い寝ができない
その課題に真正面から向き合い続けたことで、広く届けるのではなく、必要としている人に深く届く発信になっていきました。
その姿勢が、距離を越えて伝わっていったのです。

全国1800施設中・5位という評価。
ペット旅行専用メディア「休日いぬ部」にて、全国約1800施設の中から、上半期5位。
前年は9位。確実にステージを上げてきました。
日々の積み重ねが、客観的な評価として返ってきています。
“ワンちゃんを人扱いしてくれた”
以前は一般的な旅館だった場所で、大型犬も多頭飼いも、犬種制限なし。
スタッフにとっても、すべてが手探りのスタートでした。
ひとつ問題が起きたら、ひとつ考える。
どうすれば、もっと快適に過ごしてもらえるか。
そんな日々の中で、宿泊アンケートに増えていった言葉があります。
「ワンちゃんを人扱いしてくれた」。
食事会場で自然に出されるお水。
部屋にそっと置かれたメッセージカード。
館内はリード付きで自由に歩けて、おむつの強制もありません。
特別な演出ではなく、“家族として当たり前に接する”という姿勢。
それが「やっと普通に旅行できた」という声につながっています。
旅行は非日常。
でも、わんちゃんとの旅には“日常の延長”が必要。
その感覚が、宿の空気そのものになっていました。

美味しい時間も、遊ぶ時間も。静かに進化した2年間。
この2年半で、サービスも少しずつ進化していきました。
朝夕にはわんちゃん用の蒸した鶏むね肉を提供。
地元食材を使ったわんちゃん用ハンバーグも登場し、旅先でも“愛犬に特別な一皿”が用意されています。
屋内ドッグランは、今では人気のフォトスポット。
雨の日でも元気に走り回るわんちゃんの姿がSNSに投稿され、その一枚が、また新しいご縁を連れてきます。
リピーターも増え、日によっては宿泊客のほとんどが再訪ということも。
「また来ます」という言葉が、何よりの答えです。
それでも、まだ途中
「まだ知らない人はたくさんいる。ワンちゃんを飼っている人なら、誰でも知っている宿にしたい」。
“あそこなら間違いない”
そう言われる存在へ。
3年後、5年後には、確固たる犬宿ブランドとして確立したいと福留支配人は語ります。

皆生温泉を、もっと「お散歩が楽しい街」に
最近では、浴衣姿でわんちゃんと海辺を歩く光景も、皆生温泉の日常になりました。
けれど福留支配人は、さらにその先を見ています。
「よく聞かれるのが、“お昼ご飯を一緒に食べられる場所はない?”という質問なんです」
宿の中は快適でも、一歩外に出ると、まだ選択肢は多くありません。
もし空き店舗がドッグカフェになったら。
もしお土産屋さんが、わんちゃん同伴OKになったら。
「松涛園があるから」だけでなく、
「皆生温泉に行けば、街全体で楽しめる」。
そんな場所になったら、きっともっと人は集まる。
「3年後、5年後には、もっとたくさんのわんちゃんの笑顔が街にあふれていたら嬉しいですね」
そう語る表情は、とても静かで、あたたかでした。

松涛園の決断は、ひとつの宿を変えただけでなく、
皆生温泉の風景そのものを少しずつ動かしています。
遠くからでも訪れたくなる理由。
また帰ってきたくなる居場所。
そして少しずつ広がっていく、皆生温泉の新しい日常。
まだ道の途中。
けれど確かに今、このまちには、わんちゃんの足音と人の笑顔が増えています。
わんちゃんと泊まる温泉宿 松涛園
| 住所 | 鳥取県米子市皆生温泉4-25-15 [MAP] |
|---|---|
| 電話番号 | 0859-22-3107 |
| 駐車場 | 40台 無料 予約不要 |
| 情報 | ホームページ Instagram |