【インタビュー】いつもの景色が、忘れられない旅になる。ボランティア通訳ガイド・八尾裕子さんが伝える皆生の魅力
海辺の夕日、路地に咲く花、近所の人との何気ない会話。私たちにとって身近な日常が、海外から訪れた人には、心に残る体験になることがあります。
皆生で暮らしながら、海外のお客様を案内している八尾裕子さん。お話を伺うと、地域の魅力を伝えるヒントは、いつもの風景や、人と過ごす時間の中にありました。

海外への憧れから、地元の魅力を伝える側へ
八尾さんがウェールズへ渡ったきっかけは、大好きな音楽でした。
歌詞の日本語訳を読めば、おおよその意味はわかる。でも、なぜその言葉が選ばれたのか、背景にはどんな文化があるのか。もっと深く知りたいという思いから、現地へ。語学留学を経て仕事に就き、約6年半を過ごしました。
帰国後は皆生で暮らし、英会話講師として働く中で、海外出身の先生たちを案内したり、困りごとを手伝ったりしていたそうです。その自然な交流の延長に、今のガイド活動があります。
かつては地元に、どこか物足りなさを感じていたという八尾さん。その見方を変えたのは、案内した人たちの反応でした。
「ここの何がいいの?」と尋ねると、返ってくるのは「全部」という答え。
海や温泉だけでなく、通りにある看板、庭先から顔をのぞかせる花、お店で交わす短い会話。そんな一つひとつを楽しむ姿を見て、八尾さん自身も、皆生の良さに気づいていきました。
何気ない会話も、一緒に料理をする時間も
八尾さんの案内は、まず相手に「何をしてみたいか」を聞くところから始まります。
温泉に入りたい人、日本の暮らしに触れたい人。希望に合わせて、一緒にまちを歩いたり、料理をしたり。その人が楽しみたいことを大切にしています。
取材の前日に迎えたのは、ウェールズから来た18歳と19歳のカップルでした。一緒に買い物へ行き、八尾さんの家で浴衣を着たり、天ぷらを作ったり。お二人は、ウェールズの国旗を折り紙で作ったそうです。
さらに、茶道をしている近所の女子高校生も加わり、お茶の文化を紹介してくれたそうです。
英語に自信がなくても、自分の知っていることを伝えてみる。その間を八尾さんがつなぐことで、地域の人と旅人が一緒に楽しむ時間が生まれます。
まちを歩いている時も、顔なじみの人との「元気?」という何気ないやり取りを、訪れた人たちは喜んでくれるといいます。
観光するだけでは出会えない、暮らしの中の会話。その輪に加わることも、旅の思い出になっているようです。

「木洩れ日」という言葉が、景色の見え方を変える
八尾さんが大切にしているのは、言葉の背景にある文化や感覚まで伝えることです。
例えば、「木洩れ日」。
木々の葉の間から差し込む光を、私たちは一つの言葉で表します。その意味を別の言語で説明することはできても、日本語と同じように、ひと言でぴったり伝えるのは簡単ではありません。
八尾さんは研修で、木洩れ日を見かけた時に、その言葉を旅行者に紹介しているガイドの話を聞き、強く印象に残ったそうです。
目の前の光に名前があること。そして、その光を美しいと感じ、言葉にしてきた感性があること。それを知ると、何気なく見ていた景色に、新しい意味が重なります。
八尾さんが届けたいのは、そうした発見です。
日本では、日々の暮らしのどんなところに美しさを感じ、何を大切にしているのか。風景を見ながら、その背景にある文化を知ることも、海外から来た人にとって新鮮な体験になります。
「誰かを通して」ということを大切にしたいと話す八尾さん。
言葉を訳すだけなら、便利な道具もあります。それでも、同じ景色を見て、相手の反応を感じながら言葉を添える。そこに、人が案内するからこそ生まれる交流があります。

皆生の海辺で感じる「一期一会」
皆生の砂浜で波の音を聞き、夕日を眺める時間も、案内した人たちの心に残っているそうです。
その時、大きな反応があるのが「一期一会」という言葉。
海や夕日は、ほかの場所でも見られるかもしれません。でも、今日、皆生という場所で、この顔ぶれで過ごす時間は、二度と同じ形では訪れません。
八尾さんがその意味を伝えると、旅行者たちは、今感じている気持ちにぴったりの言葉を見つけたように受け止めてくれるといいます。
心に残るのは、目の前の景色と、そこにいる人、交わした言葉、その日の空気が重なった時間。同じ場所で同じ瞬間を分かち合うことが、深い感動につながっているのです。
雨の日も、曇りの日も、その日にしかない風景があります。誰と、どんな空を見上げたのか。その記憶が残ることも、旅の豊かさなのかもしれません。

日常の魅力を、一人ひとりに届けたい
現在、八尾さんは案内活動を本格化するため、通訳案内士に関する研修を受講しています。課題として検討しているのは、皆生エリアを約2時間で巡るツアーです。
内容はまだ構想の途中。海辺や路地裏を歩くこと、地域の文化に触れることなど、実際にまちを見つめながら考えています。
目指すのは、地域の暮らしや文化を伝え、訪れた人に「皆生っていいね」と感じてもらえる案内です。
その思いが強くなった出来事もありました。台湾や韓国への旅行から米子へ戻る飛行機で、山陰への到着を心待ちにしている旅行者たちを見た時のことです。
その姿に、喜んで帰ってもらいたいという気持ちが湧いたといいます。今は英語に加え、韓国語の勉強も始めています。
皆生の魅力は、毎日の暮らしの中にも息づいています。庭先の花に目を留めること。挨拶を交わすこと。誰かの得意なことを、一緒に楽しむこと。
八尾さんのように人と言葉をつなぐ方がいて、その周りに、少しずつ関わる地域の人がいる。そうした小さな力が集まって、誰かにとって忘れられない皆生の時間をつくっています。
